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「あなたの会社はサークルみたいですね(笑)」30年間生き残った社長が力説「会社はこれから“コミュニティ化”していく」

コロナ禍で、多くの企業がリモートワークへと移行し、個人の働き方が変化する中、経営者には「会社」というものの存在意義と向き合う必要が生じています。デジタルエージェンシーTAMの代表、爲廣慎二さんもそんな一人です。

「会社」はこれからどうあるべきかーー。爲廣さんが自問を続ける中でたどり着いたのは「会社は“コミュニティ”化していく」という答え。コミュニティ化した会社はどんな姿形をしているのか、個人の働き方はどう変わるのか? 真意を尋ねました。


「TAMはサークルみたいですね(笑)」

―ずばり、「会社の“コミュニティ”化」とはどういうことでしょうか?

爲廣:少し過去のことを振り返らせてもらいますと、TAMが大きな仕事をいくつか獲って、社員が30〜40人になり、急に軌道に乗りだした20年くらい前、それはもういろんな人に「TAMはサークルみたいですね(笑)」と言われました。

カチンと来て、なぜそんなことを言うのかと聞いてみると、どうも「TAMは指揮系統が明確でない」という意図で言っているようで。ヒエラルキーがなく、メンバーはバラバラ。9割の人が「甘い」というネガティブなニュアンスを含んでいたと思います。

でも、2015年くらいを境に「サークルみたい(笑)」というようなことは一切言われなくなりました。「サークルみたいに、みんなが好きな活動でつながって、それで会社がうまくいくならそれでええやん」という風潮になりましたよね。 

―爲廣さんが考える「コミュニティ化した会社」とはどんなものか、もう少し詳しく教えてもらえますか? 

爲廣
:ざっくり言えば、「仲間がつながる共同体」みたいなもの。人が自発的にその場に集まり、つながって、協働する組織=コミュニティと呼んでいます。

僕はヨットが趣味なんですが、ヨット仲間も同じようなもので、「空気みたいにつながっているもの」と言ってもいいかもしれません。いなくなって初めてその寂しさに気づくし、一緒にいればケンカもする。

僕も今年60歳になって一人になるのが怖くなり、家族を大事にするようになりました。若い人でも、コロナで同僚と会えなくなり、つながりの大切さに気づいた人もいるかもしれません。そのときに「失った」と感じるもの、“コミュニティ”化した会社とはそういうイメージです。

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―たしかに、コロナ禍ではつながりの量だけでなく、質も問われ始めた感があります。

爲廣:そのとおりじゃないでしょうか。そもそも人間の五感に、「デジタル」って含まれていませんよね? 実際に会うと相手を五感で感じられるけれど、デジタルだけでコミュニケーションを取っているとだんだん辛くなってくるのは、そういうことがあるのだと思います。

「ヒエラルキー型」と「コミュニティ型」の違い

―従来のいわゆるヒエラルキー型組織と、爲廣さんが言うコミュニティ型組織には、どんな違いがあるのでしょう。 

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爲廣ヒエラルキー型組織には指揮系統があって、労働力として個人が集まる組織です。そのつながりの本質は、労働力を提供して対価を得るという契約。対価にはお金だけでなく、経験やノウハウ、人脈なども含まれますが、つまりは「損得」でつながっているのだと思います。

それは全然正しくて、資本主義のあるべき姿でもある。欧米企業はインセンティブを重視したり、そういう傾向が一般的ですよね。日本企業はもっと所属によるポジションとか、自分がどれだけ組織の役に立てるかを重視しているように感じます。

一方、コミュニティ型組織のつながりの本質は、理念やクレド(行動指針)。指揮系統ではありません。TAMでも、実現したいビジョンなどは僕が謳うんですが、そのために何をするかは、2020年に分社化した6社それぞれの経営者にまかせています。

理念やクレドにしたって、別に大層なことを言っているわけではなく、「クライアントに満足を」「家族に誇れる仕事を」「社員は勝手に幸せになりなはれ」だとか。つまり、大きな船の舵を切るというより、小さな船6艘に「みんなでこっちに行こう」と声をかけている感じ。

それを外部の経営者仲間には「内向き」とか「アホっぽい」とか何度も言われて(笑)、僕も「もっとカッコよくしないと」と焦っていた時期もありました。でも、理念やクレドに共感したスタッフが増えるのに比例して業績も伸びてきたと思うんです。

―つまり、コミュニティ型のほうが成果も出しやすい、と。

爲廣:コミュニティ型組織の大きなメリットに、「集団脳」の活性化というものがあります。

先日『NHKスペシャル』で、集団的知性は集団でないと獲得できなくて、それが集団脳として文化や時代を超えて受け継がれていく、という話を聴いて、「ええこと言うなあ(笑)」と思っていたんです。

ネアンデルタール人はコミュニティが家族単位以上に拡大せず、結果的に滅びた。でも、ホモサピエンスは150人規模の組織を形成できたから、その中でイノベーションが起きて、受け継ぐ人もいて、今のわれわれ人間へと進化できた、と。やっぱり、ある程度の人数がいないと集団脳の獲得は難しい。

さらに言えば、たとえ大きな集団であっても、トップの人しかものを言えないようなヒエラルキー型組織では、そもそも集団脳の核となるイノベーションが起きにくいように思います。

TAMでも辺境というか、中央ではないところで新しいことが起こってきました。海外に進出したときも、初めて外国人を雇ったときも、それはもう社内で非難轟々でしたよ。「雇って何するんですか」と(苦笑)。

「でもやってみたら何か起きるかもよ」と、15年前は僕が辺境に立ってそういうことをしていました。今は組織の中でそういうサイクルが回っています。

―コミュニティ化を志向するからこそ、TAMは新人育成にも力を入れているのでしょうか?

爲廣:仕事の効率だけを考えれば、最初からプロが集まったほうがいい。でも、プロジェクトを遂行するために、仕事ができる人だけが集まったテンポラリー(一時的)な組織は、僕の考えでは「コミュニティ」とは呼びません。

ホモサピエンスの話に戻ると、サルでいえば父親と母親と子ザルがいて、みんなで育てますよね。そのように次世代を育成することで、集団的知性を受け継いでいくという機能を内包して初めて「コミュニティ」と呼べると思っています。

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会社のコミュニティ化で個人に求められるマインドシフト

―個人に視点を移すと、コミュニティ化した会社では「契約でつながる感」が薄い、と。だとすると、「正社員」だとか肩書きの意味はなくなりますか?

爲廣:そう思います。契約が正社員だろうとパートだろうと業務委託だろうと、まったく重要じゃないと、それは創業当時から思っていました。20年以上前に考えたクレドにも「会社はいつなくなってもいいようにしよう!」とはっきり書きました。

では何が大切になるかというと、実は「サークル」って厳しい世界なんですよ(苦笑)。サークルって、肩書が何であろうと、サボったり役に立たない人は干されて、幽霊部員扱いされますよね。それとまったく同じで、「コミュニティ化した会社」って全然甘くない。

―ということは、個人は組織に頼らず、自分で生きていける力をつける必要があるということでしょうか?

爲廣:それは全然いいことだと思います。TAMに入ってくれる人も含めて、今の若い人は「1人でも生きていけるスキルを身につけたい」という人が多い。でも、どんなスキルを、何のために身につけるのか、は今一度考え直したほうがいいと思っていて。

よく、「専門性という縦軸、ジェネラルスキルという横軸の両方を深掘りして『T型人材』を目指そう」と言われますが、その横軸は何のためにあるのかというと、人と人との関係性の中で生きていくためですよ。

「すでに自分1人でも生きていける」と思っている人に言いたいのは、ずっと1人では生きていけない、というか、今でさえ自分1人の力で生きてるんじゃないよ、ということ。「一生フリーランスでやっていける」とか思っている人は、実は生存確率は低いのではないでしょうか。

なぜなら、「自分1人でも生きていける」という人は、実はコミュニティというその力を活かせる場があるから生きていけているわけです。そして、同時にコミュニティに育てられてもいる。

つまり、コミュニティがあるからこそ、そこに貢献できるよう、個人としての力を高めるモチベーションが生まれる、という順番があるんだと思うんですよ。そのことに気づく人は少ないけれど。

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爲廣:一方で、「コミュニティ化した会社は甘くない」と言いましたが、もし自分がコミュニティから脱落しそうになっても、もし他のメンバーが「その人とのつながりは大切」と感じてくれていたら、厳しいことを言ってでも助けようとしてくれる。

例えば、僕も先日、TAMの元社員が転職するために必要だというので全力で推薦文を書いたりしたんですが、人と人としてつながっているからそういうこともするんですよ。 ただの損得でつながっている関係だったら、そんなに必死になるはずないですから(苦笑)。

結局、会社にしても何にしても、目指すべき姿は自然界にあるわけです。TAMは自由度が高くて、サークルっぽくて、「サボる人だらけでしょ」とよく言われるんですが、動物の群れと同じように、サボったら群れから外されてしまうからそんなことは起こらない。

コミュニティの中で、人とのつながりによって生かされているからこそ、一人ひとりが自分の役割を果たそうとする、その力学によって個人の成長が加速する。そんなサイクルが機能する会社は、損得でつながるヒエラルキー型組織より、ずっと強いと思います。

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[取材] 岡徳之 [構成]ウルセム幸子 [撮影] 藤山誠


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