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「器用貧乏」の成長戦略。一つのことを突き詰められない性格を生かすキャリア

要領が良く、何事もそつなくできてしまう、いわゆる「器用貧乏」タイプの人は、周囲から必要とされる一方、一つのことを極められないという一面も持っています。「効率」が重視される今、「一つのことに一生懸命になれない自分なんて・・・」と悩む人もいるのではないでしょうか。

しかし、たとえ一つのことを極めることはできないとしても、いや、極めることが難しいからこそ、「器用貧乏」を自分のエッジにすることはできるかもしれません。なぜなら、一つのことで120点は取れなくても、たくさんの分野で80点を取り、それらを掛け算することはできるから。

TAMのディレクター・飯田健さんは、Webディレクションはもちろんのこと、好奇心のおもむくままにいろんな分野に携わり、またそれにまつわる知識を短期間で身につけ続けることで、スキルの幅を広げてきたそう。それによってキャリアが「らせん状」に作り上げられていったと言います。

飯田さんが考える「器用貧乏」の成長戦略と、「器用貧乏」の強みを活かし、成長を後押しするTAMという働く場についてお話を伺いましたーー。


「達人にはなれない」悩んだ先で起きた、マインドシフト

僕、本当に器用貧乏なんです。なんでも初めてのことは、楽しくて、夢中になるんですけど、すぐに飽きちゃう。一つのことに集中できない。ただ、コツをつかむのは早いほうなので、スポーツでも学校のテストでも、そこそこのレベルまでは割とすぐに到達できたんですね。

でも、どれも80点くらいのレベルになったら、だいたい満足しちゃう。100点になるまでは、頑張りきれないというか。それに、ちょっとやってみて「できない」と思ったことは潔くやめてしまう諦めの早さもあって(苦笑)。そういう、まさに「器用貧乏」なんです。

ただ、それが問題だなと思うようになったのは、25歳のとき。当時は新卒で入社した大手電機メーカーからWeb制作会社に転職して、中小企業のWebサイトを作っていました。常に20本くらいの案件を同時に回して、250社くらい中小企業向けのサイトを作って。やれることは増えたんだけど、このままじゃなにかの達人にはなれないーー。それを不安に感じるようになったんです。

もともと、「達人」とか「職人」への憧れは強いほうで、一つのことを突き詰めていけるタイプの人たちが、かっこいいとは感じるんです。油絵を描いていた大学生時代にも思ったんですよ。たとえお金が稼げなくても、辛いと感じても、なにか一つのことを集中してやり続けられる芸術肌の人と、自分は違うなって。

自分は、一つのことで一点突破できないタイプなら、せめていろんな分野で80点を取って、それを掛け合わせていく、そのスタイルを極めるべきなんじゃないかなって思うようになったんです。

さっさと飽きるところまでやる。「器用貧乏」の成長戦略

そんな中、TAMの取締役である加藤洋さんが開催していたセミナーに参加して、TAMと出会いました。

セミナーの後、「今度遊びに来てください」とフランクな感じで言われて、オフィス見学くらいのつもりで行ってみたところ、その場で社長の爲廣さんやプランナーの小栗さんを紹介されました。会社の説明を聞いて、なんでも自由にやらせてくれそうな環境だなと思っていたら、「うちに来ませんか?」と言われて、「じゃあ転職します」って。

TAMでは大企業向けの仕事ができることに惹かれたんです。大企業のほうが、先端的な、新しい技術を試せるから。それまで培ってきたWebディレクションのスキルを生かしながら、単なるWebサイト制作だけでなくいろんな分野を試していこうって。

ただ、TAMに入ってからは、自分のエッジを問われる日々。年に2回はリーダーと面談をするんですが、そこでいつも必ず聞かれるんですよ。「誰にも負けないエッジを何にしていくのか?」って。

僕は「マーケティングをエッジにしていきたいです」と答えたものの、それってものすごい広い概念じゃないですか。Web広告に強い人、SNSマーケティングに強い人・・・しかも、必要とされる知識は業界ごとでも変わりますし、だけど自分はどれか一つに傾倒するのは難しい。

そこで、思ったんです。「もう自分は器用貧乏らしく、マーケティングのことならだいたいなんでも喋れますよ、ってくらいになってやろう」と。

マーケティングはもちろんWeb制作の上流に位置していて、モノを売るためはいつ、どんな広告や商品ページを出すべきか・・・全体が薄く分かっている必要があるんです。でもそれって、器用貧乏に向いているんじゃないか、とも。

そうしていくうちに、自分のキャリア戦略がはっきりと見えてきたというか。

達人や職人は、ゴールにたどり着くまで一直線に進むかもしれません。でも器用貧乏な人って、まっすぐに進めない。他にも興味がニョロニョロって出てきて、いろんなことに手を出して蛇行しながら、らせん状に進んでいく

どうせ蛇行するなら、思いっきり高速で蛇行して、上へ上へと進んでいけばいい。とにかくダラダラやらずに、自分が飽きるところまでさっさと、一気にやる。それこそが、器用 “貧乏” を乗り越えるポイントだと思うようになりました。

例えば、Webマーケティングの中でも、コンテンツマーケティングをテーマに据えるんだとしたら、それに関するプロジェクトを2つ、3つ同時に回す。そのことばっかり考えて、それ以外のテーマの仕事はやらない。

そうすると、学習が早いんです。複数の案件を同時並行で経験することで、自分の中に事例が増え、課題解決のパターンが見えてくる。課題にぶつかったときも「ルートAからは攻められなくても、Bからなら攻められるかもしれない」と考えられる。全体が見えていれば、違う道を見つけだしやすいわけですから。

器用貧乏が活かされる環境と、器用貧乏ゆえの「リスク」の回避方法

器用貧乏の人は、得た知識やスキルを横展開できるのも強みかもしれません。個別具体なことでも、それを抽象的に捉えたら応用できることって多いんですよ。

僕はスポーツの中でテニスと卓球が得意なのですが、それはラケットを使ってボールを相手コートに、相手よりも数多く入れるという競技を行ううえでの条件が同じだから。打ち方や走る距離は違っても、どんな場面でどの角度でボールを返すと有利になるか、共通している部分があると思います。

器用貧乏の人は趣味でいろんなことに手を出すから、いろんな人と打ち解けられることも強み。趣味の一つが「うなぎ釣り」なんですが、たいていの人が「えっ」って食いついてくれます。YouTubeでやり方を覚えてやってみたらできたんです。みんな難しいと思っているけど、意外と簡単(笑)。

ただ、器用貧乏だからこそ、特に気をつけないといけないと思っていることもあります。それは、常に「ビジョン」と「柔軟性」を持ち合わせておくということ。

一つのことを極めることができない分、複数の掛け合わせが重要になります。だから、どんなビジョンを目指していて、そのために何に手をつけるべきなのか、知識やスキルの組み合わせを考えるようにしています。

また、器用さを当てにして立ち止まったりせずに、市場の変化を受け入れて行動し続けないと、そこで成長が止まってしまい、ただの「貧乏」になってしまうリスクがあると感じています。

TAMは、そういう僕みたいな器用貧乏にうってつけの環境だと思います。もちろん職人気質の人もいるのですが。

とにかく自由なんです。「新入社員だからこれからやりましょう」とか、年功序列とかない。自分で仕事を取ってきてプロジェクトを回せるようになったら、「あれをやれ、これをやれ」とか言われないですし、自分がやりたいことを思うようにやれる環境。

例えば、大阪にはWeb系の勉強会が少ないので、デジタルマーケティングのミートアップを主催したり、リアルの友人づてに仕事が生まれたり。先日、海外の仕事をしてみたいと言ったところ、海外のチームに入れてくれて、「いつ海外赴任する?」という話まで出ています。

普段の実務においても、会社で仕事に必要なモノを買うときも、煩雑なりん議ーーチームリーダー、課長、部長の順でハンコをつくスタンプラリーみたいなものはないですよ。リーダーにそれが必要な理由を伝えて、許可をもらうだけ。もしそれがチームの権限を超えていたら、爲廣さんに直接話せばいい。

器用貧乏な人って、やりたいことが次々と生まれてくるから、そんなふうにどんどん試せる環境はいいですね。

そんな環境を活かして、これからはマーケティング戦略全体の設計に関わる仕事を増やしていこうと思っています。「Webサイトを作りました、広告をやりました」じゃなくて、商品の企画開発みたいな、より上流からプロジェクトに入らせていただき、最後の情報の拡散までやってみたい。

それと近い将来、海外でも働きたい。残り30、40年も働く今の時代、今後日本国内の仕事だけで食べていけるとは思わないから。どんな環境でも価値を出せる人になれるよう、今から多様な文化に触れておきたい。

そうやって、これからもいろんなことに手を出して、器用貧乏を極めていこうと思います。器用貧乏の究極系が「テクノロジーや市況が変わろうと、どんな環境にも適応して生きていける」ということだと思うから。

株式会社TAM プランナー・ディレクター 飯田健
1989年京都生まれ。新卒では大手電機メーカーにてマーケティングを担当。仕事の傍らデザインとコピーライティングを学び、Web制作会社を経てTAM入社。クライアントにMBS毎日放送、ミズノ、積水ハウスなど。認知からコンバージョン、拡散に至るまでの動線をフルファネルで設計・企画する。

[取材・文] 水玉綾 [企画・編集] 岡徳之 [撮影] 藤山誠