見出し画像

「セルフメンタルケアを学ぶのは義務教育にすべき」増える若手社員の不調に会社はどう向き合う?クリエイティブ・テックエージェンシーTAMの場合

近年、メンタル不調を訴える人が若者を中心に増えています。ジェネレーションギャップやリモートワークなど、さまざまな要因が背景にありますが、不調を悪化させないような社員のメンタルケアは、企業の課題となってきています。

クリエイティブ・テックエージェンシーTAMでは、社員が気軽に利用できるセルフメンタルケアの施策を7月から導入しました。どのような施策なのでしょうか?また、マネジメントも若手社員側も、メンタルヘルス向上に対してどう向き合えばいいのでしょうか?

TAMでHR(採用広報・キャリアサポート)を担当する茶園舞穂さんと総務を担当する鈴木佑季さんに話を聞きました。

知らない人だから話せること

―TAMでは今月から新たに、社員のセルフメンタルケアに関する取り組みを始められたとのことですが、どのような施策ですか?

茶園: 7月頭から外部のカウンセリングサービスを利用できるようにしました。臨床心理士や公認心理士が登録しているオンライン・プラットフォームで、利用者はカウンセラーを選んで、悩みを相談することができます。

以前からTAMでは、産業医に相談できる制度がありますが、そこまでいくともう結構遅いというか、「最終手段」という感じもあるので、もうちょっと手前の段階で話を聞いてもらいたいときに、社員が気軽に申し込んで利用できるものとして導入しました。

株式会社TAM HR(採用広報・キャリアサポート)茶園舞穂
2019年に大学卒業後、Web広告代理店に新卒入社し、広告運用ディレクターとSNSコンサルタントを経験。社会人4年目でコーチングやHR領域に興味を持ち、転職を決意。2022年9月にTAMに入社し、国家資格キャリアコンサルタントに合格。キャリア相談のプロとして、いつか教育業界に関わりたいと思っている

鈴木:「書くカウンセリング」と「話すカウンセリング」があって、書くほうは1日1回チャットで相談、話すほうはビデオチャットで相談できます。今、私と茶園さんでセルフメンタルケアに関する勉強会をするなどして、サービスへの登録を促している最中です。

株式会社TAM 経理・総務課 総務リーダー 鈴木佑季
人材業界、専門商社などで勤務し、縁あってTAMへ入社。「仕事が趣味」と「仕事は仕事」のバランスを最近うまく取れ始めたかも・・・?「働きやすさ」「たのしい職場」について考えながらスピード感あるTAMで日々奮闘中

茶園:サービスを利用したいスタッフはカウンセリングを受けたい旨をだれかに報告する義務はないので、自分で自由に申し込んで、カウンセリングを受けてもらいます。だれが申し込んでどんなカウンセリングを受けたか、などは私たちは管理しません。サービス運営社からは「月に何件の利用がありました」という請求書レベルの報告しか来なくて、個人の特定とかはまったくありません。

―社外のまったく知らない人に話す効果はあるのでしょうか?

鈴木:「知らないからこそ話せる」っていうのもありますよね。知っている人に話すと、別の人に話が伝わるんじゃないかとか、後々社内でやりにくくなるんじゃないかとか、不安が広がることもある。まったく関係のない人だと、社内に漏れることはないだろうという安心感を持って話せるというのはあると思います。

茶園:私も月1回、全然TAMのことを知らない人にお金を払ってコーチングしてもらっているんですけど、本当に気にせずに話せるんですよ。

些細な相談の例でいうと、「最近やる気が出なくて・・・」と仕事仲間に言ったら、相手を不安にさせちゃうから言いにくいですよね。実際、私がHRとしてみんなの話を聞いていたときには、そういう声を聞きました。「やる気ない」って言ったら、仕事が来なくなるとか、まわりの見る目が変わるとかいう不安が浮かぶのは想像できます。

―サービス導入のきっかけは何だったのですか?

茶園:実は、以前からこういう施策の導入の必要性は感じていました。私は2022年9月にTAMに入社しましたが、キャリアコンサルタントの資格を持っているので、それを活かして1年ぐらいかけて、みんなの話やお悩みを雑談的に聞いてみたんですね。

ちょっとずつ関係を構築して、みんなが「チームの人には言えないけど、ちょっと聞いてほしい」といろいろ話してくれるようになりましたが、正直しんどくなるときもありました。自分の中に秘密が蓄積していく感覚で。

1年を超えたあたりで、みんなの話はもちろん聞きたいけど、聞きすぎるのも自分のメンタルにとって良くないかもと思い、やっぱり第三者として聞ける外部のカウンセラーが必要だと思うようになりました。

そんな中で今年3月にゆっけさん(鈴木佑季さん)が入社して、同じキャリアコンサルタントの資格を持っているので、いろいろ共通言語を持って話し合うようになりました。

鈴木:4~5月ごろにちらほら産業医の面談を受けたいという人が出てきて、「最近多いよね。何かできないですかね」という話になって。茶園さんと相談して、社長の爲廣さんに施策を提案したのが6月初旬ですね。

―7月からサービス導入となると、かなりのスピード決定だったんですね。

茶園:社内で1年に1回取っているアンケートで、「カウンセリングに興味がありますか?」と聞いたところ、「興味がある」という人が3割いたんですね。爲廣さんに言ったら、「多すぎる。信じられない」と言うので、もう1回、シンプルなアンケートで「カウンセリングサービスをTAMで登録しようと思いますが、使いたいですか?」と聞いたところ、想定より多くのメンバーが「試してみたい」と答えました。

爲廣さんはクレドで掲げているとおり、「勝手に幸せになりなはれ」という思いがあるので、アンケートで2割の希望者がいたらもう導入してもいいでしょう、と言っていました。結果、希望するメンバーがいると明確になったので、話はどんどん進みましたね。

メンタル不調の背景にあるもの

―みなさん、どんな不調を訴えられているのでしょうか。

茶園:ここ1年ぐらいで数名がメンタルの不調を訴えていましたが、睡眠障害や気持ちの浮き沈みの症状が出ています。

不調が起こるのは突然というよりはジワジワと積もった結果だと思いますが、産業医に診てもらう段階だと、もう相談というよりは、休むとか辞めるとか決意してリーダーに打ち明ける段階になっていることが多く、調子を崩していた人が ”突然” 発覚するところに課題を感じました。

鈴木:不調の要因として、ジェネレーションギャップもあると思います。ベテランスタッフが「我慢して当たり前」と思う出来事も、若い世代にとっては我慢ではやり過ごせないこともあり、言い出せない雰囲気を感じるのでは、と察します。

「まわりの人にどう思われるかを重視する」人は、20~40代のうち20代が圧倒的に多いという調査結果もあるようですし、誰かに相談したらどう思われるかを考えて、あまり動き出せない人も多いようです。

―メンタル不調の背景はいろいろでしょうが、共通して見えてくるものはありますか?

茶園:爲廣さんは「リモートワークのせいでメンタルヘルスを崩す人が増えている」と常々言ってて、今の週1出社を週2、週3に変えていきたいと言っています。

たしかにリモートワークばかりというのは、メンタルを崩す原因の一つかもしれません。が、私はそれだけではないようにも思っています。

責任感があって抱え込みやすい人やしんどいと言い出せない雰囲気や人間関係っていうのは、不調を生む背景として共通していると感じます。

タスクの難易度と量が能力に合わないケースもあったのですが、その点はマネジメントと本人のすり合わせが甘いように感じました。マネジメントからしたら「いけるやろ」と思っていたことが、プレッシャーをかけるケースですね。

鈴木:それは、よくも悪くもTAMの文化が影響しているんだろうな、と思っていて。TAMの文化はスピード感もあって、結構いろんなことを入社したての若い社員でも任せてもらえる。それは長所なんですけど、捉えようによっては難易度の高いことをいきなり振られるということでもありますよね。

そして振られた本人がどう感じるか。「この仕事やったことないけど、めちゃくちゃ面白そう」と捉えるのか、「あれもこれも降ってきてどうしよう。ちょっとやりきれない」と抱え込んでしまうのか。後者の場合はどうしてもメンタルが不調に陥るかな、と。

―なるほど。組織と個人の対立的なこともあるし、多様な捉え方もある。

茶園:そもそもの問題として、ビジネスとメンタルヘルスは性質上、対立しているんですよ。ビジネスは「本当に耐えなきゃいけないときがある」という性質がありますが、メンタルヘルスは「我慢はよくない」なので。

経営者とか、仕事が趣味みたいな感じの人だと、楽しいからその大変な過程もまったく苦にならないけど、休憩は必要だし、仕事と関係のない時間を持つことでいいパフォーマンスが出る人もいるわけで。そこの対立があるような気がします。

鈴木:そうですね。片方は仕事を「仕事」って思いすぎていて、片方は「趣味」として楽しみすぎているっていうところがあるのかな。仕事を趣味で楽しんでいる人は、面白いから時間も考えずにやれちゃうけれど、抱え込んじゃう人は何でも真面目に受け止めて、適当にできない。

もう少し肩の力を抜いて、半分ぐらいは「できません」とか「ま、こんなもんか」とか、適当に面白がりながらやれたらいいのかな、と思います。

逆に楽しんでいるほうは、それ自体まったく問題ないんですが、ただやっぱり「自分とは違う人もいる」ということを理解できると、お互いにちょっと歩み寄れるのかな、と思います。各自がそういう違いに配慮できるように、勉強会などを開けたらいいですね。

茶園:あと、仕事がフィットしていない可能性もあります。過去の自分が結構そうだったんです。前の職場で働いていた新卒3年目ぐらいのとき、あまり得意を活かしていなかったというか、ひたすら成長するためだけに仕事をしていた時期があって、実はしんどかった。

そのとき、上司が少し仕事を減らしてくれて、自分を振り返る時間が取れたんですね。それで落ち着いて自己分析を始めたら、実はこの仕事が向いていないから苦しいんじゃないかな、みたいな。好きなことだったら、もっと無限に働けるぐらいやれるはずだと気づきました。

だから、今苦しい人は、もっと自分の好きや得意を活かしたり、「楽に心地よくできる仕事があるかも?」と考えてみるのもいいかもしれません。

―「仕事が趣味」の人と、「仕事は仕事」の人と、お互いに歩みよる中間点みたいなところはありそうですね。

茶園:同じ人間だから、きっと分かり合える部分があるはずですよね。ロボットじゃないんだから、やる気があったりなかったり、気分が上がったり下がったりっていうのは当たり前というのは、お互いに共通して持っていたい。

仕事を楽しくゴリゴリできる人は、たまたま趣味に感じられるぐらいの仕事や環境に出会えてラッキーなのではと思います。でも、人にはいろんな人生のタイミングがあって、まだフィットしきれていない仕事をしている人もいるわけで。そのパーソナルなところにマネジメントがもっと寄り添えるようになると、本当に若手が育つ会社になるよなあ、と思ったりしています。

カウンセリングは美容院感覚で

―メンタルヘルスを保つ上で、お2人がやっていることはありますか。

茶園:私は新卒3年目で仕事が辛かったとき、嬉しかったことや悲しかったことを日記に書き始めました。書くと考えが整理されたり客観視ができたりして、自分で自分をコントロールしている感じがすごく生まれたんですね。そこから転職に踏み切ったりもしました。

鈴木:私は「自分に集中する」ことが大事だな、と思っていて。なんかしんどいな、と思っているときに、なんでそれを思ったのか、自分がどこに引っかかっているのか、どういう癖があるのかを考えて、自分のことをよく知ることです。

あとは、「感情と事実を切り分ける」こと。いろんな業務がいろんなところから降ってきて、イラっとする場面もありますよね。その日のコンディションとか、朝満員電車で気分が悪くなったとか、いろんな事情があるわけです。

でも、そういうときに「ちょっと待って。今、何をしないといけないんだっけ」と冷静に考えて、起こさなくてはいけないアクションだけをシンプルに考えると、結構サクサクとタスクを達成できちゃうこともあると思います。
嫌なことがあったときに、何でも真に受け止めない「スルースキル」も大事ですね。

茶園:メンタルヘルスを保つことは、社会人として暗黙の了解で自己責任になっている気がします。「自分で自分のご機嫌を取る」というか、自分の状態を管理する。なんか気分が悪いなと思ったら、ちょっと身体を動かしてみるとか、ちょっとモヤモヤしているなと思ったら、カウンセリングを受けてみるとか、いろいろ手立てはあります。

でも、どうやって自分を整えていくかというのは、社会人になってから自分で学んでいくしかない。自分自身メンタルを崩してから、はじめて重要さに気づきました。このことに気づいてから、「セルフメンタルケアを学ぶのはもう義務教育に入れるべきだ」とさえ思うようになりました。

―セルフメンタルケアはみんなが当たり前にできるようにするべきだ、と。

茶園:そうですね。私はみんなに「マッサージとか美容院に行く感覚で、カウンセリングとかコーチングとかを受けてもらいたい」と思っています。1回3,000円とか5,000円とかが高いというのであれば、会社のアカウントでぜひサービスを使ってみたらいいし。

髪の毛が伸びてきたり、肩が凝ったりすると、美容院やマッサージに行きますが、メンタル面でも最近寝つきが悪いとか、モヤモヤして仕事に集中できないとか、自分のサインに気づいたらケアしてほしいな、と思います。

鈴木:私たちとしても、勉強会を実施したり、みんなで集まって交流したり、外に出たりする機会をもっと設けようと、セルフケアの意識を高めるような施策をいろいろと計画しています。リモートワークも籠りすぎると心を病む原因になり得るので、オフィス出社を促すようなアイデアも検討しているところです。

当番制で「おやつ番長」みたいなのを作って、「今週は誰々さんチョイスのおやつがあるのでオフィスに来てね」とか、いろいろ施策を考えているので、みんなに利用してもらえたら嬉しいですね。

[取材] 岡徳之 [構成] 山本直子 [撮影] 藤山誠、蔡昀儒