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リモートワーク時代の「つながらない権利」を考える。勤務時間外の連絡にルール化は必要?

SNSやチャットで、いつでもどこでもつながれる現在、勤務時間外にも業務連絡が来て、「オン」と「オフ」のメリハリをつけにくいと感じる人が増えています。特にコロナ禍以降、リモートワークが浸透すると、その区別はますますつけにくくなり、バーンアウト(燃え尽き症候群)の原因としても問題視されています。

そんな中、業務時間外の「つながらない権利」を明文化し、連絡時間などにルールを設ける企業も出てきました。しかし、こうしたルール化は本当に必要なのでしょうか? 個人の「つながらない権利」を守るには、なにが必要なのでしょうか?

リモートで連絡を取りながらチームメンバーを率いる、デジタルエージェンシーTAMの大内千佳さんと田村夢希さんに、チャット時代の新しい働き方について、お話を伺いました。

リモートワークで「コア時間」を意識

―まずは、お2人の仕事をご紹介ください。

大内:私はTAMの取締役とECを専門にした子会社の代表取締役を兼務しています。ECのチームメンバーは20名ほどで、クライアントのサイト構築などのお手伝いをしています。

業務内容としては、私自身が直接手を動かすことは少なくて、社内外のミーティングに参加して、クライアントワークのフォローや承認、アドバイスをしたり……というマネジメント的なポジションです。

コロナ禍によってEC化率が日本でも上がったうえに、ECと店舗を連携させて顧客体験やブランド価値を高める動きが近年の動向なので、最近はデジタルだけでなく店舗のブランディングなども幅広く手掛けているところです。

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田村:僕は2020年4月入社で、TAM歴は浅いんですけど、今はデジタルマーケティングがメインの広告チームのリーダーです。

チームメンバーは10人ぐらいで、全員20代。「1を10にする」ような、集客や売上アップにつなげる仕事が多いですね。

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―コロナ以降、どんな働き方をされていますか?

大内:もともと週1出社を推奨していたんですが、コロナになってからは基本的にリモートワークで、昨年はみんなで顔を合わせたのが10回もないぐらいの状態になっています。

田村:今はリモートワークですね。週に2回くらいリアルで会社に来てもらいますが、定例会、ミーティングなどはオンラインです。特に大人数が参加する場では、地理的な制約がないオンラインで集まるようになりました。

―リモートワーク浸透後、勤務時間とそれ以外の時間で、連絡や仕事の仕方は変わりましたか?

大内:圧倒的に定時を意識するようになりましたね。

TAMの勤務時間の考え方は本当に自由で、自分でやりたいことをどんどんやっていくところがあって。もともとは裁量労働制で有休も定時もないくらいの感じでしたが、今はスーパーフレックス制に移行し、勤務推奨時間の10〜19時をより意識して働いています。なので、私たちのチームは19時以降にミーティングはしません。

リモートワークが基本になってからは、通勤時間もないし、会社でダラダラしゃべっていた時間もなくなったし、勤務時間がギュッと凝縮された気がします。

田村:僕はリモートワークになってから入社したので、「リモートワークネイティブ」というか、あまり浸透前のことを知らないんですが、みんな10~19時のコアタイムで動いているな、という印象があります。

19時以降はほかの人を巻き込んで会議をするというよりは、それぞれが明日までにやらないといけないことをやる時間になっています。

以前はずっと「バンドマン」でドラムを叩いていましたが、そのころは逆に、ライブがあれば昼夜も土日も関係なく働いていましたね。ライブが福岡である場合は、前日の夜から車を走らせて、翌朝に福岡に着いて、ライブして、それが終わったらそのまま泊まらずに帰ってくる……という世界だったので。

仕事=好きなことでやっていたい人間なので、時間外だろうがなんだろうが、個人的には気にしないところはありますね。

オフの充実が仕事に活きる

―大内さんが19時以降、ミーティングをしないようになったタイミングと理由は?

大内:私が定時を意識し始めたのは、ちょうどTAMの取締役を兼務し始めた昨年9月のタイミングだったと思います。それまではリモートでも関係なく、19~21時くらいまではミーティングを入れていたので、大きな変化でした。

もともとECチームのリーダー業務が多いうえにグループ経営業務が加わったので、そのための時間を無理やりにでも作ろうと考えたんです。

普通の業務をこなすことだけでいっぱいになってしまったら、事業を発展させていくことを考える余裕がなくなるから…… 一般業務は19時で必ず終わらせてもらおうと、まずその線引きがあったんですね。

―19時以降に充実したことは?

大内:私はK-POPの「BTS」が好きで、オフの時間は韓国語の勉強をしたり、VRチャットで韓国の方と交流したり…… そうしたら、韓国のECサイトやアプリも見るようになって、世界が広がりましたね。

私は手を動かして作業をすることが少なくなったので、自分が作業をせずにBTSを見ていることが申し訳なくなった時期もあったんです。その時、そのことを尊敬している方に話したら、「自分がしたいことをして、みんなも19時以降はミーティングが入らなくなって、さらに売り上げが上がっているなら、全員ハッピーじゃん!」って。

それに「その時間に自分が得られたことは?」と聞かれて、「韓国語を勉強するようになりました」と答えたら、「すごくいいじゃん!」と。一般業務をしていない時間もなにかプラスになるんだと思えたんですね。

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―オフに好きなことをすることが、結果的に仕事を充実させることになると。

大内:そうですね。休みの日にゆっくりするだけでも、そこから得られるものはすごく大きかったというか。しかも仕事にメリハリをつけて、平日にガッと集中してやれば、成果は変わらないんですよ。

このプライベートの充実をみんなにも極力味わってもらいたいと思うので、土日や長期休暇の間にも連絡を取らないように、明確に線引きしています。

平日の勤務時間外にはどうしてもメッセージを送ってしまうこともあるけれど、「返信は明日の朝でいいです」などと加えるようにしています。

即レスしなくてもいい人間関係を

―田村さんは19時以降の時間をどう過ごされていますか?

19時以降も自分の仕事はよくやっています。ただ、チームメンバーに連絡することはあまりないですね。できるかぎりそれまでに終わらせています。

僕はどちらかというと、「つながらない権利」を行使する人間なので、メッセージが来ても緊急性がないときは無視することもあります(笑)。それでも、メンバーからの質問とか相談とかそういうのはいつでもウェルカムなんですけど。

―そうすると、田村さんのチームでは、業務時間外の連絡についてルールのようなものはない?

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全然決めてないですね。幸いにもこっちが決めないといけないほど問題になっていない、というのもあります。

ただ、メッセージにあえて誰宛なのかメンションを付けないとか、朝に送信されるように予約投稿機能を使ったりとか、そういう工夫はしています。あとは仕事ごとに求められるスピードに応じて、電話やチャット、メールを使い分けるとか。

結局、「つながらない権利」とかって、労働者と使用者の問題じゃないですか。労使が上と下でガツガツしている会社だと、明文化していくことが必要になってくるんだろうな、とは思いますね。

TAMの場合は、基本人を管理しない会社なので、そこは明文化しなくても各自が考えて対応すればいいよ、という話だと思います。

―わりと自然に「つながらない権利」が実現しているんですね。

そうですね。ただ、ルール化しなくても「つながらない権利」を行使できるようにするには、チャットに即答しなくても怒られないとか、しなくてもいい関係性を普段からつくっておくことは大切だと思います。

根本的には、リアルな人と人との人間関係がないと、チャットにしても「Zoom」にしても時間外の連絡にしても問題は起きたりするのかな、と思うので…… それが今求められてるような気はしますね。

「やらされる泥臭さ」と「自発的な泥臭さ」

―勤務時間以外で仕事のやり取りがないことのメリットは?

田村:ダラダラ仕事をやる必要はないですが、僕自身で言うと、なんにも縛られずに、時間に制限がない状態で仕事ができることですね。パッと終わらせたい仕事もあるけど、「これはこだわりながら、楽しんでやりたい」という仕事もある。

それを自由に自分で極力コントロールできるカルチャーがTAMにあるのは、すごく嬉しいですね。

終電まで働くことの美学とか、努力する泥臭さとか全然分かりますし、自分もそうやって頑張ってリーダーになってきたところもあると思うんですけど、根本では「やらされる泥臭さ」と「自分でやる泥臭さ」は、全然違うと思うので。

そのあたりのバランスがうまくとれているとすごく働きやすいし、「つながる・つながらない」も余裕を持って考えられるかな、と思います。

大内:本当にそのとおりで、業務としてやらされる仕事の時間は決めて、あとはやりたいことに時間を割くのがとても大事。私も夜中2時にECサイトを見て、「これ最高!」とか言っているタイプなので(笑)。

―若いうちは勤務時間を気にせずに頑張れ、というような考え方についてはどう思われますか?

田村:一般的に、会社はやっぱり労使でカッチリ分かれていて、使用者に振られた仕事を労働者がやるという構造だと思うんですよね。

でも、そこで上司にスポ根的な昭和根性を振りかざされて部下が努力しても、自分の身にはならなくて…… 上司の評価は上がるかもしれないですけど。本当に自分のスキルになっているのか、成長につながっているのか、好きなことをやって、いい人生を送れているのか、疑問を持たないといけないと思います。

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自分の好きなことを頑張る…… 例えば僕の場合、バンドのドラムは、楽しんでやっていたことなので別に時間は関係ないんですね。今のTAMの仕事も好きですし。

もちろん、同じ仕事でも、やりたくなくてもやらないといけない作業もありますが、それだって楽しい部分がいっぱいあるからやれているのであって。そういう線引きは自分で判断しないといけないかもしれないですね。

大内:そうですね。それに今は副業もあるし、「若いうちは頑張れ」的な考え方はすごく変わったと思います。

1つのことをずっとやっているだけだったら、それはその人のためになりません。なので、私のチームでもやりたいことに時間を割くことを推奨しています。それはTAMでやっていることと同じことでもいいんです。

実際、副業でECをやっている20代の子もすごく多くて…… そっちにも時間を割いていろんな視点を持てるようになったほうが、自分自身の生きる力も養えるし、それによってクライアントに提供するものの質も上がると思うんですよ。

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―「自発的な一生懸命」が大事なんですね。

田村:はい。これは別に仕事にかぎったことではないですが、「一生懸命やることのすばらしさ」はあると思います。TAMの根底にはそれを感じますね。

大内:会社から与えられた仕事にただただ時間を使うのではなく、自分の人生を思いっきり生きてほしいと思いますね。そうやって一生懸命モノごとに取り組む、その力を養うというか。それが自分のキャパシティーを広げることになるんじゃないかと思います。

私は人とずっとつながっていたいタイプではないけど、一生懸命やる「バーニング」は楽しんでいます(笑)。

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[取材・編集] 岡徳之 [構成] 山本直子 [撮影] 石田バレット (Barrett Ishida)


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