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ゆるやかなつながりから仕事を作る。個の時代、会社に頼らず「個人で」仕事を獲得できるビジネスパーソンとは

「仕事」というものは以前、会社間で発生するものがほとんどでした。しかし、最近では、SNSの広がりなどを背景に、人と人との出会いややり取りから自然と生まれるようにもなり、会社ではなく、特定の個人に仕事が依頼されるケースも増えています。そうなれば、個人として、自己実現できる可能性や働き方の選択肢の幅が大きくなるのは間違いないでしょう。

デジタルエージェンシーTAMにはすでにそうした「個人で仕事を獲得する」を叶え、大きな裁量を持って活躍しているメンバーがいます。企業のSNSマーケティング支援を専門とするソーシャルチームに所属する市岡祐次郎さんもその一人。市岡さんは企業のみならず、東京都や横浜市のInstagramアカウントの運用など、行政・自治体による情報発信のプロジェクトのサポートも手がけています。

今回はそんな市岡さんに、会社を頼らず、個人で仕事を獲得できる、ときにはクライアントからの指名もかかるビジネスパーソンの資質や、それを培うために必要なこと、特に20代のうちから求められることについて、お話を聞きました。

最近、「お誘い」で始まる仕事が増えてきた

ーまずはじめに、市岡さんは普段、どんなお仕事をされていますか。またどのような流れでお仕事が始まるのでしょうか。

今は主に3つの軸の仕事を並行してやっています。「しゃかいか!」というモノづくりの現場を紹介する自社メディアの運営、企業が持つInstagramアカウントの運用などデジタルマーケティングの支援、それにともなう写真・動画・記事などコンテンツ制作です。

クライアントは大手企業と自治体が多く、プロジェクトは提案依頼書をもらい、施策を提案して始まるケースがほとんどです。ただ、3年ほど前から、年間の予算を決めるタイミングなど仕事が決まる「前」の段階で、相談というかたちで、知人やクライアントさん同士のつながりで紹介されることも増えてきました。

例えば、横浜市文化観光局のInstagramアカウント「@findyouryokohama_japan」は立ち上げからサポートさせていただいているのですが、横浜市の職員の方が、新しくInstagramを始めようと企画していた東京都の職員の方に僕らのことを紹介してくれたそうです。それがきっかけで企画コンペにお声がけいただき、東京都文化振興部の「@tokyoartsandculture」の運用サポートのお仕事もさせていただくことになりました。

最近は、そうした「お誘い」や紹介から始まる仕事がほとんどです。逆に僕も「一緒に仕事をしたいな」と思う人を見つけたら、積極的に声をかけるようにしています。そうやって、縁をつなぎながら、常に自分は誰かの「ワンピース」でありたいと思って、働いています。


「いろんな立場」で活動することで、ゆるやかなつながりができた

ーご自身では答えづらいかもしれませんが、必ずしも会社を介さず、個人で仕事を獲得できるようになったのは、なぜだと思われますか。

どうでしょう・・・ クライアントさんに聞かないことには本当のところ、全然分かりません。

ただ僕は、TAMの人として、しゃかいか!の人として、またカメラマンとして、プロデューサーとしてなど、場所や仕事によって自己紹介の仕方が違います。「いろんな立場」で活動をすることで、社外との接点を比較的多く作れたことは一つの要因かもしれません。

特にしゃかいか!は、純粋に会いに行きたい人に会って魅力を掘り下げ発信することが目的なので、基本的に儲けなし、自分たちで稼いだ利益を削っての活動になります。営利ではなく好奇心が活動の軸なので、「クライアントと受託者」という関係とは違ったかたちで外部の人とゆるやかにつながっていける場になっていると思います。

ただそのつながりの中から後のクライアントさんやパートナーさんと出会うことも結果的に増えてきていることを考えると、遠回りはしていますが、案件獲得にいい影響を与えていると言えるかもしれません。

また、仕事を得られる背景には、TAMという会社の信用が大きいと思っています。30年近くこの分野で頑張り続けてきていることや、グループ全体で150人規模であること、海外含め7つの拠点があることなど、地道に成長を続けてきた会社の文脈があってこそ、いち社員としての個性が受け入れてもらえているはずです。


フィクションを共有し、結果を出せる人と

ー逆に、市岡さんが「この人に仕事を頼みたい」と思う人はどんな人ですか。

「なんだかこの人とはうまくいきそう」と直感的に思える、仕事の取り組み方や成果物のイメージが共有できそうな人に頼んでいます。

『サピエンス全史』という本によると、私たちホモ・サピエンスが自分たちよりも体の大きな種や動物に勝ち、生き残ることができた要因の1つは、「フィクションを共有できたから」だそうです。要は、神やお金など、実在しないものを信じて「一緒に」動くことができた。
これを読んだ時に、いつもパートナーさんを選ぶ時のなんとも言えない感覚を肯定されたような気がしました。「なんだかこの人とはうまくいきそう」というのは、高い精度で「フィクションを共有できる人」とイコールだとすると、ホモ・サピエンスとしてはなんとなく正しいのかなと。

もっともらしく伝えてしまいましたが、すごく簡単にいうと、子どものころからの友達づくりと大差ない気がします。

例えば、最近よく一緒に仕事をしているグラフィックデザイナーの方との出会いは、とあるイベントで個性的なアート作品を売っていたり、ワークショップをやっていたりするところを見て、興味を持って声をかけたことでした。

その彼とはそのあと街中で何度か会ったりしていて、縁を感じていました。極めつけは、有楽町の地下にある喫茶店で、偶然にも隣の席になった時、「この喫茶店の良さを分かり合えるなら、絶対に良い仕事ができる」って直感的に思いました。

そういうフィクションを共有できる人とは、仕事ではない個人プロジェクトをやったり、仕事を離れても自然に一緒に何かやっていたりします。きっと、お金を生む・生まないに関わらず、自分たちが思う「価値」を大切にしているんだと思います。もしそれに、本当に価値があるのであれば、数字は後からついてくると信じています。

もちろん、大前提として、アウトプットのクオリティはシビアに見ていると思います。自分にはできないことを実現したいからその人にお願いしているのであって、お互い自分の役割に関してはプロフェッショナルでありたいです。だから、お願いするときには相手に求める役割と成果はハッキリと伝えます。

これは、お仕事を受ける立場としても同様で、いつもクライアントさんにとってのプロフェッショナルでいられるよう努力しています。

20代に仮説を立てて動いてみたことがよかった

ービジネスパーソン、特に20代の人が、市岡さんのように個人で活躍できるようになるために必要なことはなんでしょうか。

そんなにいい20代を送れた気がしていないので、偉そうなことは言えませんが・・・ やっぱり、目の前のことを労を惜しまずにやることかなと思います。「なんでこの仕事を頼まれたのか」を考えて、打ち込む。あとは、仮説を立てていろいろと行動してみるのも一つの手です。その仕事が自分に合うか合わないかは、僕の場合はやってみないと気がつきませんでした。

僕のファーストキャリアは、大手メーカーの経理部でした。固定資産などの資産管理関係、財務寄りの業務を4年半くらいやっていたのですが、経理の仕事に打ち込んでいるように見える周囲と比べると、努力はしていたのですが自分はそこまで熱くはなれなくて、そのギャップが不思議で悶々としていたんですよね。

そこでまず、幅広く働くことに関して情報収集をしました。本を買って興味のある内容を書いている作者のことを調べたり、SNSで面白いと思える人を見つけて連絡を取ったり。

そうしている中で、昔から興味があったデザインを仕事にしてみたいと思い、勉強をするために美術大学の通信制の授業を受けたり、近所のデザイン事務所に通ったり、Webデザインやコーディング、カメラのことを学んだり、IllustratorやPhotoshopも触りながら覚えたり・・・と「○○な仕事をしたいから、準備として○○をしたらいいか」という仮説を立てながら動いてみました。

そうやって模索する中で、自分に合うこと・合わないことが徐々に分かってきて、現しゃかいか!編集長加藤さんとの出会いから、メディア立ち上げメンバーかつディレクター兼カメラマンとして、TAMへ転職しました。

結局、デザイナーとしてはやっていけないんじゃないかということに途中で気がついて、挫折はしたんですが、やってみて分かったことなので後悔はしていません。むしろ、デザイナーさんをリスペクトしながら仕事ができるのでよかったと思っています。

振り返ると、目の前のことを一生懸命やりつつ、今後に向けて仮説を立てて動いてみたというのが、20代のほとんどだった気がしますし今もそうなので、当然これからも続けていくことなのかなと思っています。

ー市岡さんの今後の目標は・・・?

これからは「チームづくり」に力を入れていきます。個人でできることは時間的にも体力的にも制限がかかってくるので、今まかせてもらっている大きな仕事を安定的に運用しつつ、新しいことにチャレンジできる、余裕のある体制にしたいです。

目まぐるしく変わる世の中に対し価値を出し続けられるよう、メンバーそれぞれ個が際立ちながらも組織としての力が発揮できる、しなやかで強いチームづくりを目指しています。

ー新しいこととは具体的にどんなことですか?

やりたいことはたくさんありますが、例えば、海外のクリエイターや編集者とのつながりの中で、仕事ができたらいいなと思っています。最近、仕事で海外を訪れ、いろんな人に会いますが、「フィクションを共有できる人」は、世界中にいることを実感しています。

また、海外へ行くようになって気がついたのですが、日本って、モノづくりやデザインに関して海外の人から尊敬されたり、興味を持ってもらえたりすることが多いです。

そんな日本という場所にたまたま生まれて、たまたまモノづくりやデザインの近くで仕事をしてるので、その興味関心のギャップを埋めるような仕事を作っていけたらいいなと思っています。

TAM プロデューサー/しゃかいか!編集者兼カメラマン 市岡祐次郎
1986年愛知県生まれ。大手メーカー経理部を経て、TAMへ入社。自社メディア「しゃかいか!」立ち上げメンバーとなり日本全国年間100件以上のものづくりの現場などを取材。クライアントは東京都、横浜市、台湾貿易センター、野村不動産ホテルズ(株)、(株)ワコール、(株)バスクリンなど。海外や地方がらみの案件が多く、稼働日の半分くらいはオフィスにいない。イベントや取材によるコンテンツ制作などリアルとデジタルを絡めた施策が得意。
[取材・文] 水玉綾 [企画・編集] 岡徳之、池田礼 [撮影] 加藤洋、林裕介、湊七海